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「やった……やったぞ! 俺は勝った!」
「すごい! 本当に勝っちゃうなんて……やっぱりシロウはすごいよ」
「まったく世話のかかる人だ! だけど、本当によくやってくれたな」 それにしても、本当によく勝った。
「シロウ! 本当に勝ったんだね! 本当に……本当に!」
死闘の戦いだった。一度は死んだ俺が復活して再び打ち破った。
これは紛れもない奇跡と言えるだろう。俺は相手のステータス画面を確認すると、赤色となっており、後は俺がコマンドの『転移』を選択するだけの状態だった。
そして、俺はアカギの敗北によって周りの水がなくなっていくことに気が付いた。今度はあの水を出したライオンの置物が、水を吸い込み瞬く間にこの場の水はなくなった。
もう少しで酸素ゲージも尽きるところだった。危なかったな。
あのアカギの魔法から解放されたエリザはまっさきに俺に駆け寄ってきた。とても、心を踊らせるように喜びながら俺に抱きついてきた。
ひまわりのように明るいと言った方がよいか? とにかくさきほどのエリザとは違って、いつものエリザが戻ったような感じでした。
「……よくやってくれた、感謝している」
「ああ……なんとかだけどな」
「私はあのときあなたは負けると思っていた、私も倒せない相手があなたに倒せるはずがない……そう思っていた」
そんなことを思っていたのか。確かにシェリーの言う通りだ。俺にはまだアカギという男に挑むのははやすぎた。
今回だって、エリザがいなかったら死んでいた。だから、シェリーの言うことは間違ってはいなかった。
「ただ、あなたは私の想像以上の実力を本番で発揮してくれた……そして、こんな裏切り者の私のために戦ってくれた……」
「何を言っているんだ? さっきも言っただろう……お前は昔の自分を変えたくて、今ここにいるんだろ? だったらそれでいいじゃないか! お前はもう赤い雨じゃない! 俺たちの仲間だ!」
「う……そうか、あ、あり……」
「あ? あり?」
「な、なんでもない!」
「そうか? それならいいんだけどな」
俺はシェリーの方を見ると若干表情が赤くなっていることに気付いた。何を恥ずかしがっているのか分からなかったが、俺はこれ以上はシェリーには何も言わなかった。
そして、俺は少し離れたところで倒れこんでいるアカギに近づいて行った。
「……負けたのか」
「ああ、一度は俺もあんたに負けた……引き分けといったところだろうな」
「ばかやろう……最終的にこのフィールドに立っていたやつが勝者なんだよ! お前もそれは分かっているだろう?」
アカギは今にもかすれそうな声で俺にこう問いかけた。
デュエルは最終的には立っていたやつの勝利だ。俺はそんなことを思いながら、倒れこんでいるアカギにあのときの約束の話を持ちかけた。
「さてと……約束通り、ギルド赤い雨の解散……そしてお前たちが持っている『青いカケラ』を渡してもらおうか」
「たく……倒れている相手に追い討ちをかけるな」
「それでもあんたほどの鬼畜じゃないことは確かだと思うが?」
「それもそうだな……ほら、これが一つ目のカケラ『青いカケラ』だ」
すると、アカギはゆっくりとステータス画面を開き操作していた。そして、しばらくすると俺のアイテムインベントリにアカギからアイテムが届いた。それは、とてもキラキラと輝いており見ているだけで、心が奪われそうなほどにその青いカケラは素晴らしいものだった。
すごい……今まで見てきたどんな宝石よりもきれいだ。ゲームでは青いカケラなんていくつも手に入れたが、やっぱり自分の目の前にあるとこんなにも違うものなのか。
俺はそんな青いカケラに感動していると、後ろにいたエリザもこの輝きに感動しており、触らせてなど言ってきた。騒々しいな……まあ、女子はこういうものには目がないものか。
「……これが青いカケラ! 食えるのか?」
「は? いや、カケラなんですけど」
一人訳の分からないやつがいるけどな。
そして、アイテムである青いカケラを受け取った後、アカギはついに自分がここまで作り上げた『赤い雨』を解散するようだ。
「まさか……このギルドを解散するときがくるなんてな」
「……それは仕方がない、自業自得だろ?」
「ふん! それもそうか……」
アカギは少し笑いながらステータス画面の中からギルドのメニュー欄を開いた。
そして、ゆっくりととした手つきでギルドの解散手続きをしていった。
最後に『本当に解散しますか?』というところで、一瞬だけその手が止まったがアカギはその場で少し息をついてから、『解散』を指先でタッチした。
「……なに? この音?」
「鐘の音か? 方向からしてギルド本部のようだが……」
しばらくこの部屋に謎の鐘の音が響いていた。
ゴーン、ゴーンというような鐘の音は、とても印象的で何が起こっているか分からなかった。
その鐘の音がこうこうと響くなかで、アカギは静かに俺たちにこう説明した。
「これは俺たちの『赤い雨』の解散の合図みたいなものだ……仲間たちに解散したということを伝えるため……そして、俺と一緒に暮らしている家族に俺の死を伝えるためだ」
「家族!? あんたこの世界に家族もいたのかよ!」
「そ、そんな……でも一体どうしてですか?」
「どうせ、最後だ……お前たちに話してやるとするか」
すると、アカギは俺たちに最後ということで家族のことを話し始めた。
「俺たちは三人家族でとても幸せな生活を送っていた……ただ、ある日俺は務めていた会社をクビになった」
「でも、それでも諦めなければ……」
「俺も最初はそうすれば必ず救いの手が俺たちを助けてくれると思っていた……だけど、世間は俺の想像以上に冷たかった! 俺にはもう生きる気力がなくなっていた」
そして、このアカギから話されたその後の内容は会社をクビになった後は、就職先を転々としており人間関係などで会社をやめてしまうことがほとんどだったらしい。
それからというものの、パチンコや酒に溺れる日々で家族には迷惑しかかけていないという話しだった。
俺たちはそんなアカギの話を黙り込んで聞いていた。
シェリーはこのアカギの秘密を知らなかったらしい。
そして、エリザはどこか悲しげな表情でそんなアカギを見ていた。
「金もなくなり、借金を作っていた俺は毎日家にヤクザが家に押しかけてきてよ……ある日、俺から家族は離れていってしまった……最後の言葉は『元気でね』だったけな」
聞いているだけで俺はつらい気持ちになった。このアカギという男にこんな過去があったなんてな。
かなりこの仮想の世界では現実的な話。
この男は俺以上に背負っているものがあったんだ。
「全てを失った俺は……雨の日川に飛び込んで死んだ……ただ、そのはずみかは分からないが、この世界に来たというわけだ……そして、今度こそ俺は絶対にこんなことにならないように力だけを求めて……同じ境遇のやつらを集めて『赤い雨』というギルドを作ったというわけだ」
「じゃあ……シェリーさんも」
「……そうだ、私も両親に捨てられたという過去だった……あれは激しい雷雨の日だったか? まあいい……もう私は昔のことなど気にしていない」
赤い雨というギルド。それは今まで完全なる悪のギルドだと俺は思っていた。ただ、アカギという男はこの世界にいる家族にギルドで稼いだお金の一部は養育費代わりとしてかかせずおくっていたらしい。
それも、匿名で……今までさんざん迷惑かけた償いとして。そして、自分は悪に染まり家族には迷惑をかけずにいたらしい。くそ……なんていい男だよ。
確かにやり方としては間違っていると思う。他の人に迷惑をかけたりするのもどうかと思う。
だけど、俺がもしこのアカギと同じ状況になってどうするだろうな?
考えられない。
そして、シェリーがなぜこの赤い雨というギルドの一員になったのか。今なら分かる気がするぜ。
「さぁ……俺を『転移』させてこの世界から抹殺しろ!」
「本当にいいのか? あんたの家族はどうする?」
「きっと俺がいなくても幸せにやっているだろう……それに俺は約束は守る男だからな……」
「……最初の相手があんたでよかった、いろいろと学ばせてもらった」
「ふん……それはよかったな……最後に俺の家族に会いたかったら、そこの街に行けよ……お前のメッセージボックスに送っといてやる」
俺はアカギから最後の手土産である家族の住所を教えてもらった。
メッセージボックスにはアカギの家族がいる街の名前や地理情報などが細かく書かれていた。
そして、最後にアカギは俺に対してこう言った。
「最後にお前は必ず強くなる……そして必ずカケラを集めろ」
「……言われなくてもそのつもりだ」
「それじゃそろそろ……『転移』のコマンドをタッチしろよ」
俺はアカギのその言葉てステータス画面から『転移』をタッチした。
そして、アカギは最後笑いながら赤い光とともにこの場から消えていった。
こうして、赤い雨との戦いは終了した。
俺はこのアカギという男から学んだことを忘れないように……しっかりと胸に刻みたいと思った。
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