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焼き芋の創作サイト
http://yamasaki.yu-nagi.com/
不安と恐怖と絶望で首まで心臓が飛び上がったように息苦しい。
俺の体に鉛が含まれているかのように重く苦痛なものだった。
そうか、俺は……あいつに負けたのか?
あの強烈な攻撃をまともに受けてしまったからだ。まさか、神水まで扱えるやつとは思わなかった。
実力が、実力が違い過ぎた。
「どうだ? 敗北の味は?」
「ぐ……なんで俺はすぐに消えない? HPが0になった瞬間に敗北は決定してるだろ?」
「これはあくまでデュエル、そして俺が主催したデュエルであるためステータス画面の『転移』というコマンドを押すまでデュエルは終わらない」
「相変わらずいじわるだな……苦しむ俺の姿をそんなに見たいか?」
「いやいや、敗北をしたとはいえお前のような人材を失うのは痛い……それで、こんな条件があるんだがどうだ?」
アカギは俺を見ながらばかにしたように鼻で笑いながらこんなことを言ってきた。
明らかに足元を見られているがこんな状況では仕方がない。俺は、仕方なくそのアカギの条件を聞くことにした。
「この<復活の草>(エリクサー)でお前をHP0の状態から救ってやる」
「エリクサーだと……それは超レアアイテムなのになんで持っている?」
「まあ、それは言えないがな……それよりもどうする? もし、エリクサーを使って欲しかったら、今すぐあいつらをお前の手で殺せ」
「は? お前なに言ってんだ?」
俺は自分でも声が怒りに震えるのを抑えきれなかった。なめてる、なめてやがる。
こいつは優しくもないし、俺と同じ人間と思いたくない。残酷、残虐的で卑怯者だ。俺はこの二人を助けるためにこいつとの戦いに挑んだのに、これでは目的がバラバラになってしまう。
俺は自分が助かりたいんじゃない。二人を助けたかったんだ。
あのときだって俺は川で溺れている少女をまっさきに助けに行った。自分でもなんでか分からなかったけど、俺のなかで助けなきゃいけないと思ったから体が動いてしまったのだと思う。
正義の味方と言われればそうかもしれないが、誰も助けなかったから俺が助けただけだ。
あのとき俺が動かなくても誰かが動いてくれたのかもしれない。
そうなればその人が正義の味方だ。俺よりいい結果になったかもしれない。
「そのままの意味だが?」
「そ、そんなの……ひどいよ!」
「……相変わらずひどいやつだ、この外道者が!」
「部外者は黙っててもらおうか! さぁ……お前はどうする?」
このまま条件をのまなかったら俺も含めて全員死んでしまう。ただ、こいつの言う通りにしてしまったら俺は助かっても……エリザやシェリーはどうなってしまうんだ。
こんなの決められるわけないだろ。
心理的な重圧にじっと耐えているような息苦しい表情。それが今の自分の表情だと俺は感じた。
どっちを選んでも待っているのは絶望。駄目だ……こんなの決められるわけがない。
考えれば考えるほど、俺はどんどんと深みにはまってしまいアカギの選択に答えることができなかった。
今まで俺はこんな選択などしたことがなかった。
だから、こんなに速く決められるはずがなかった。せめて時間があれば……いや、それでもこれは簡単に決められる問題ではない。
「どうした? 決められないのか?」
「こんなの決められるはずがないだろ」
「せっかくお前にチャンスをあげたの情けない……じゃあ迷いながら死んでもらおうか」
アカギは哀れっぽい表情で俺を見ながらステータス画面を見つめていた。
きっと『転移』のコマンドを押すのだろうか? 俺は終わりを確信してその場で目を閉じてしまった。
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「どうすればいいの? 私は?」
シロウの力になりたい。その気持ちで私はここにいる。なのに……こんな罠にはまってしまってシロウに迷惑をかけてしまった。こんなのシロウの足手まといになっているだけじゃない。
この世界に来る前からもそうだった。私はなんとか両親に役立ちたいと思っていろいろとがんばっていた。
殴られて、どんなにひどいことをされても私は笑顔でこう言った。
大丈夫とごめんねと。そんな甘い気持ちが今の状況を引き起こしてしまった。
私のせいでシロウを困らせてしまった。
ごめん、本当にごめんね。
胸に悲しみが満ち満ちる。どうすることもできない悲しみ。
自分の力のなさに、シロウの役に立てなかったこと。そして、この世界でも自分は役立たずということ。
さまざまな事実が私の胸をしめつけるように苦しめていた。
悲しさが心の底から湧き出る。同時に自分の両目から涙を感じた。
また、私は泣いてしまった。どうして? どうして泣いてしまうの? 死んでしまうから……ううん、これはシロウが死んでしまうから。
せっかくできた大切な人、シロウは私にとって家族みたいな人だったのに。
そんな大切な家族が失われてしまう。そんなのもう嫌だよ……。
孤独感が私を襲った。もうどうすることもできなかった。
こんな絶望の中で私は何もすることができないのか?
そんなことを思っているときだった。
「……諦めるな! エリザだったか?」
「その声は……シェリーさん?」
声をかけてきてくれたのはシェリーさんだった。比較的近い距離だったため、話すことは容易だった。
ただ、私はシェリーさんとは話すことがなかったため、あんまり話さなかったがここでシェリーさんが私にこんなことを言ってきた。
諦めるな……と。一体何を意味しているのだろうか?
「こんなときにお前がしっかりしないとどうする? 主人がピンチのときにも諦めず全力でサポートする……それが仲間じゃないのか?」
「そ、そんなこと言われましても……今の私は何もできませんし」
「戦う前、私は正直あの人がアカギに勝つことなど不可能だと感じていた」
「え?」
意外な発言がシェリーさんの口から聞いてしまった。私はびっくりして目が丸くなり、驚きのあまり言葉がしばらくでてこなかった。
そんななかでもシェリーさんは私に言葉を続けた。
「赤い雨のもと団員として私は迷っていたかもしれない、本当はまだ……」
「やめてください!」
「……どうした、急に声を張り上げて」
そこでしばらく沈黙した。そして今までに語ったものごとが私の頭が落ち着くのを待った。それから再び話を続けた。
伝えたいことはただ一つ。
「何を言ってもシェリーさんは私たちの仲間です! それはどんなことが分かっても覆りません」
「……そうか、私が悪かった」
「でも、ありがとうございます……シェリーさんのおかげで勇気をもらえました」
シェリーさんが言った通り諦めちゃ駄目だ。何があっても私はシロウに元気を与えなくちゃいけない。
それが私の役目であり、今の私にできること。
そう思って私は心から祈った。お日さまに照らされたみたいに気持ちがあったかくなる。私はこの寒い水の中でもこのような気持ちでシロウに向けて祈り続けた。
お願い……シロウに力を与えてください。私たちのためにがんばっているシロウのためになんとかお願いします。私は神様に祈るように言葉を続けた。
シロウ頑張って。そして必ず勝ってね!